• 陪審法

陪審法

昭和22年4月16日 改正
第1章
総則
第1条
裁判所は本法の定むる所に依り刑事事件に付陪審の評議に付して事実の判断を為すことを得
第2条
死刑又は無期の懲役若は禁錮に該る事件は之を陪審の評議に付す
参照条文
第3条
長期三年を超ゆる有期の懲役又は禁錮に該る事件にして地方裁判所の管轄に属するものに付被告人の請求ありたるときは之を陪審の評議に付す
参照条文
第4条
左に掲くる罪に該る事件は前二条の規定に拘らす之を陪審の評議に付せす
大審院の特別権限に属する罪
治安維持法の罪
軍機保護法、陸軍刑法又は海軍刑法の罪其の他軍機に関し犯したる罪
法令に依りて行ふ公選に関し犯したる罪
第5条
第3条の請求は第一回公判期日前に之を為すへし但し其の期日前と雖最初に定めたる公判期日の召喚を受けたる日より十日を経過したるときは之を為すことを得す
第6条
被告人は検察官の被告事件陳述前は何時にても事件を陪審の評議に付することを辞し又は請求を取下くることを得
前項の場合に於ては事件を陪審の評議に付することを得す
参照条文
第7条
被告人公判又は公判準備に於ける取調に於て公訴事実を認めたるときは事件を陪審の評議に付することを得す但し共同被告人中公訴事実を認めさる者あるときは此の限に在らす
第8条
地方の情況に由り陪審の評議公平を失するの虞あるときは検察官は直近上級裁判所に管轄移転の請求を為すことを得
公判に繋属する事件に付前項の請求ありたるときは訴訟手続を停止すへし
参照条文
第9条
前条第1項の請求を為すには理由を附したる請求書を管轄裁判所に差出すへし
前項の請求書を差出すには管轄裁判所に対応する検察庁の検察官を経由すへし
公判に繋属する事件に付管轄移転の請求を為したるときは速に其の旨を裁判所に通知し且請求書の謄本を被告人に交付すへし
被告人は謄本の交付を受けたる日より三日内に意見書を差出すことを得
管轄裁判所は検察官の意見を聴き決定を為すへし
第10条
管轄移転の請求ありたるときは被告人は検察官の被告事件陳述後と雖其の決定ある迄事件を陪審の評議に付することを辞し又は請求を取下くることを得
被告人事件を陪審の評議に付することを辞し又は請求を取下けたるに因り事件陪審の評議に付すへからさるに至りたるときは検察官の管轄移転の請求は之を取下けたるものと看做す
共同被告人中事件を陪審の評議に付することを辞し又は請求を取下けたる者あるときは其の被告人に関する管轄移転の請求に付亦前項に同し
第11条
上訴裁判所に於ては事件を陪審の評議に付することを得す
第2章
陪審員及陪審の構成
第12条
陪審員は左の各号に該当する者たることを要す
帝国臣民たる男子にして三十歳以上たること
引続き二年以上同一市町村内に住居すること
引続き二年以上直接国税三円以上を納むること
読み書きを為し得ること
前項第2号第3号の要件は其の年九月一日の現在に依る
参照条文
第13条
左に掲くる者は陪審員たることを得す
禁治産者、準禁治産者
破産者にして復権を得さるもの
聾者、唖者、盲者
懲役、六年以上の禁錮、旧刑法の重罪の刑又は重禁錮に処せられたる者
第14条
左に掲くる者は陪審員の職務に就かしむることを得す
国務大臣
在職の判事、検察官、陸軍法務官、海軍法務官
在職の行政裁判所長官、行政裁判所評定官
在職の宮内官吏
現役の陸軍軍人、海軍軍人
在職の庁府県長官、郡長、島司、庁支庁長
在職の警察官吏
在職の監獄官吏
在職の裁判所書記長、裁判所書記
在職の収税官吏、税関官吏、専売官吏
郵便電信電話鉄道及軌道の現業に従事する者並船員
市町村長
弁護士、弁理士
公証人、執達吏、代書人
在職の小学校教員
神官、神職、僧侶、諸宗教師
医師、歯科医師、薬剤師
学生、生徒
参照条文
第15条
陪審員は左の場合に於て職務の執行より除斥せらるへし
陪審員被害者なるとき
陪審員私訴当事者なるとき
陪審員被告人、被害者若は私訴当事者の親族なるとき又は親族たりしとき
陪審員被告人、被害者又は私訴当事者の属する家の戸主又は家族なるとき
陪審員被告人、被害者又は私訴当事者の法定代理人、後見監督人又は保佐人なるとき
陪審員被告人、被害者又は私訴当事者の同居人又は雇人なるとき
陪審員事件に付告発を為したるとき
陪審員事件に付証人又は鑑定人と為りたるとき
陪審員事件に付被告人の代理人、弁護人、輔佐人又は私訴当事者の代理人と為りたるとき
陪審員事件に付判事、検察官、司法警察官又は陪審員として職務を行ひたるとき
第16条
左に掲くる者は陪審員の職務を辞することを得
六十歳以上の者
在職の官吏、公吏、教員
貴族院議員、衆議院議員及法令を以て組織したる議会の議員但し会期中に限る
第17条
市町村長は四年毎に陪審員資格者名簿を調製し其の年の九月一日現在に依り其の市町村内に於て資格を有する者を之に登載すへし
陪審員資格者名簿には資格者の氏名、身分、職業、住居地、生年月日及納税額を記載すへし
市町村長は陪審員資格者名簿の副本を調製し之を管轄区裁判所判事に送付すへし
参照条文
第18条
市町村長は十月一日より七日間其の庁に於て陪審員資格者名簿を縦覧に供すへし
第19条
法律に違反して陪審員資格者名簿に登載せられたる者は縦覧期間内及其の後七日内に市町村長に異議の申立を為すことを得
法律に違反して陪審員資格者名簿に登載せられさる者は前項の規定に依り異議の申立を為すことを得
異議の申立は書面を以てし其の理由を疏明すへし
第20条
市町村長異議の申立を正当とするときは遅滞なく陪審員資格者名簿を修正し其の旨を管轄区裁判所判事及異議申立人に通知すへし
市町村長異議の申立を不当とするときは遅滞なく意見を附し申立書を管轄区裁判所判事に送付すへし
第21条
前条第2項の場合に於て区裁判所判事異議の申立を理由なしとするときは其の旨を市町村長及異議申立人に通知すへし異議の申立を理由ありとするときは陪審員資格者名簿を修正すへきことを命し其の旨を異議申立人に通知すへし
前項の通知は異議申立書の送付を受けたる日より二十日内に之を為すへし
第22条
地方裁判所長は陪審員資格者名簿を調製する年の九月一日迄に其の翌年より四年間所要の陪審員の員数を定め管轄区域内の市町村に割当て之を市町村長に通知すへし
第23条
市町村長前条の通知を受けたるときは第20条第21条の規定に依り整理したる陪審員資格者名簿に基き抽籖を以て前条の規定に依り割当てられたる員数の陪審員候補者を選定し陪審員候補者名簿を調製すへし
前項の抽籖は資格者三人以上の立会を以て之を為すへし
第17条第2項第3項の規定は陪審員候補者名簿に之を準用す
第24条
区裁判所判事は陪審員候補者の選定に関する事務に付市町村長を監督す
区裁判所判事は前項の事務に付市町村長に必要なる指示を為すことを得
第25条
市町村長は十一月三十日迄に陪審員候補者名簿を管轄地方裁判所長に送付すへし
市町村長は陪審員候補者名簿に登載せられたる者に其の旨を通知し且其の氏名を告示すへし
参照条文
第26条
市町村長前条の規定に依り陪審員候補者名簿を送付したる後其の候補者中死亡し若は国籍を喪失したる者あるとき又は第13条若は第14条の各号の一に該当するに至りたる者あるときは市町村長は遅滞なく之を管轄地方裁判所長に通知すへし
第27条
陪審の評議に付すへき事件に付公判期日定りたるときは地方裁判所長は予め定めたる市町村の順序に依り各陪審員候補者名簿より一人又は数人の陪審員を抽籖し陪審員三十六人を選定すへし
前項の抽籖は裁判所書記の立会を以て之を為すへし
第28条
陪審員として呼出に応したる者は其の市町村に於ける陪審員候補者名簿に登載せられたる者四分の三呼出に応したる後に非されは其の陪審員候補者名簿調製の年の翌年より四年間再ひ陪審員に選定せらるることなし
第29条
陪審は十二人の陪審員を以て之を構成す
第30条
陪審は検察官被告事件を陳述する時より裁判所書記陪審の答申を朗読する迄同一の陪審員を以て之を構成することを要す
第31条
裁判長は事件二日以上引続き開廷を要すと思料するときは十二人の陪審員の外一人又は数人の補充陪審員を公判に立会はしむることを得
補充陪審員は陪審を構成すへき陪審員疾病其の他の事由に因り職務を行ふこと能はさる場合に於て之に代るものとす
補充陪審員数人ある場合に於て前項の職務を行ふは第65条の規定に依り為したる抽籖の順序に依る
第32条
同日に数箇の事件の公判を開く場合に於ては数箇の事件に付同一の陪審員を以て陪審を構成することを得此の場合に於ては最初の事件の取調前其の手続を為すへし
第33条
検察官及被告人異議なきときは一の事件の為構成せられたる陪審をして同日に審理すへき他の事件の為其の職務を行はしむることを得
第34条
陪審員には勅令の定むる所に依り旅費、日当及止宿料を給与す
第3章
陪審手続
第1節
公判準備
第35条
陪審の評議に付すへき事件に付ては裁判長は公判準備期日を定むへし
第36条
被告人公判準備期日前弁護人を選任せさるときは裁判長は其の裁判所所在地の弁護士中より之を選任すへし
被告人の利害相反せさるときは同一の弁護人をして数人の弁護を為さしむることを得
第37条
公判準備期日には被告人及弁護人を召喚すへし
公判準備期日は之を検察官に通知すへし
第38条
召喚状の送達の日と公判準備期日との間には少くとも五日の猶予期間を存すへし
参照条文
第39条
公判期日を定めたる後被告人の請求に因り事件を陪審の評議に付すへきものとしたるときは其の公判期日を公判準備期日とす
第40条
公判準備期日に於ける取調は定数の判事、検察官及裁判所書記列席して之を為す
公判準備期日に於ては弁護人出頭するに非されは取調を為すことを得す弁護人数人あるときは其の一人の出頭を以て足る
公判準備期日に於ける取調は之を公行せす
第41条
第2条の規定に依り事件を陪審の評議に付するときは裁判長は被告人に対し事件を陪審の評議に付することを辞し得へき旨を告知すへし
第42条
公判準備期日に於ては裁判長は公訴事実に付出頭したる被告人を訊問すへし
陪席判事は裁判長に告け被告人を訊問することを得
検察官及弁護人は裁判長の許可を受け被告人を訊問することを得
第43条
公判準備期日に於ては裁判所は必要なる証拠調の決定を為すへし
検察官、被告人及弁護人は証人訊問、鑑定、検証又は証拠物若は証拠書類の集取を請求することを得
前項の請求を却下するときは裁判所は決定を為すへし
参照条文
第44条
裁判所書記は公判準備調書を作り公判準備期日に於ける被告人に対する訊問及其の供述、検察官被告人弁護人の申立、裁判所の裁判其の他一切の訴訟手続を記載すへし
参照条文
第45条
公判準備調書には前条に規定する事項の外被告事件、被告人及出頭したる弁護人の氏名並手続を為したる裁判所年月日及裁判長陪席判事検察官裁判所書記の官氏名を記載し被告人出頭せさるときは其の旨を記載すへし
第46条
公判準備調書は三日内に之を整理し裁判長及裁判所書記署名捺印すへし
裁判長は署名捺印前に公判準備調書を検閲し意見あるときは其の旨を記載すへし
第47条
検察官、被告人及弁護人は公判準備期日前第43条第2項の請求を為すことを得公判期日七日前迄亦同し
第43条第3項の規定は前項の場合に之を準用す
第48条
裁判所公判準備期日外に於て証拠決定を為したるときは之を検察官、被告人及弁護人に通知すへし
第49条
公判準備期日外に於て証人又は鑑定人の訊問を為すときは被告人も亦之に立会ふことを得
裁判所外に於て前項の手続を為すときは拘禁せられたる被告人は之に立会ふことを得す但し裁判所必要と認むるときは之に立会はしむることを得
参照条文
第50条
前条第1項の手続を為すへき日時及場所は被告人に之を通知すへし但し急速を要する場合は此の限に在らす
第51条
公判準備中陪審の評議に付すへからさる事由生したるときは通常の手続に従ひ審判を為すへし
公判準備期日に於て前項の事由生したるときは其の期日を公判期日とす但し訴訟関係人中出頭せさる者あるときは此の限に在らす
参照条文
第52条
被告人は公判準備期日に管轄違の申立を為すことを得
前項の申立は予審を経たる事件に付ては予審判事に対して其の申立を為したる場合に非されは之を為すことを得す
第53条
裁判所公判準備期日に公訴棄却又は管轄違の原由あることを認めたるときは決定を為すへし
参照条文
第54条
裁判所公判準備期日に免訴の原由あることを認めたるときは決定を為すへし
免訴の決定確定したるときは同一の事件に付更に公訴を提起することを得す
第55条
前二条の決定を為すには訴訟関係人の意見を聴くへし
決定に対しては即時抗告を為すことを得
第56条
第51条又は第53条の場合に於て公判準備中に為したる手続は其の効力を失はす
第57条
公判期日には第27条の規定に依りて選定したる陪審員を呼出すへし
第38条の規定は前項の場合に之を準用す
第58条
陪審員に対する呼出状には出頭すへき日時、場所及呼出に応せさるときは過料に処することあるへき旨を記載すへし
第59条
陪審員疾病其の他已むことを得さる事由に因り呼出に応すること能はさる場合に於ては其の職務を辞することを得此の場合に於ては書面を以て其の事由を疏明すへし
第2節
公判手続及公判の裁判
第60条
陪審構成の手続は判事、検察官、裁判所書記、被告人、弁護人及陪審員列席し公判廷に於て之を行ふ
前項の手続は之を公行せす
参照条文
第61条
前条第1項の手続は陪審員二十四人以上出頭するに非されは之を行ふことを得す
出頭したる陪審員二十四人に達せさるときは裁判長は之を補充する為裁判所所在地又は其の附近の市町村の陪審員候補者名簿より抽籖を以て必要なる員数の陪審員を選定し便宜の方法に依り之を呼出すへし
前項の抽籖は裁判所書記の立会を以て之を為すへし
第62条
陪審員二十四人以上出頭したるときは裁判長は其の氏名、職業及住居地を記載したる書面を示し検察官及被告人に対し陪審員中除斥せらるへき者ありや否を問ふへし
裁判長は陪審員に被告人の氏名、職業及住居地を告け除斥の原由ありや否を問ふへし
検察官、被告人及陪審員除斥の原由ありとするときは其の旨の申立を為すへし
除斥の原由ありとするときは裁判所は決定を為すへし
参照条文
第63条
出頭したる陪審員中第12条乃至第14条の規定に依り陪審員たる資格を有せさる者ありとするときは裁判所は決定を為すへし
第64条
検察官及被告人は陪審を構成すへき陪審員及補充陪審員の員数を超過する員数に付各其の半数を忌避することを得忌避することを得へき人員奇数なるときは被告人は尚一人を忌避することを得
被告人数人あるときは忌避は共同して之を行ふ共同の方法に付協議整はさるときは忌避を行はしむる方法は裁判長之を定む
第65条
裁判長は陪審員の氏名票を抽籖函に入れたる後検察官及被告人の忌避することを得る員数を告知すへし
裁判長は氏名票を一票宛抽籖函より抽出し之を読上くへし
裁判長氏名を読上けたるときは検察官及被告人は承認又は忌避する旨を陳述すへし其の順序は検察官を先にし被告人を後にす
忌避の理由は之を陳述することを得す
次の氏名票を抽籖函より抽出す迄に陳述を為ささるときは承認の陳述を為したるものと看做す裁判長抽籖終りたる旨を宣言する迄陳述を為ささるとき亦同し
陳述は次の氏名票を抽出したる後は之を取消すことを得す裁判長抽籖終りたる旨を宣言したる後亦同し
第66条
前条の手続に依り陪審を構成すへき陪審員及補充陪審員の数を充したるときは裁判長は抽籖終りたる旨を宣言すへし
第67条
陪審を構成すへき陪審員は初に当籖したる十二人を以て之に充て補充陪審員は其の他の当籖者を以て之に充つ
第68条
陪審員は第65条の規定に依り為したる抽籖の順序に従ひ著席すへし
第69条
裁判長は検察官の被告事件陳述前陪審員に対し陪審員の心得を諭告し之をして宣誓を為さしむへし
宣誓は宣誓書に依り之を為すへし
宣誓書には良心に従ひ公平誠実に其の職務を行ふへきことを誓ふ旨を記載すへし
裁判長は起立して宣誓書を朗読し陪審員をして之に署名捺印せしむへし
第70条
裁判長は陪席判事の一人をして被告人の訊問及証拠調を為さしむることを得
陪審員は裁判長の許可を受け被告人、証人、鑑定人、通事及翻訳人を訊問することを得
第71条
証拠は別段の定ある場合を除くの外裁判所の直接に取調へたるものに限る
第72条
左に掲くる書類図画は之を証拠と為すことを得
公判準備手続に於て取調へたる証人の訊問調書
検証、押収又は捜索の調書及之を補充する書類図画
公務員の職務を以て証明することを得へき事実に付公務員の作りたる書類
前号の事実に付外国の公務員の作りたる書類にして其の真正なることの証明あるもの
鑑定書又は鑑定調書及之を補充する書類図画
第73条
裁判所、予審判事、受命判事、受託判事其の他法令に依り特別に裁判権を有する官署、検察官、司法警察官又は訴訟上の共助を為す外国の官署の作りたる訊問調書及之を補充する書類図画は左の場合に限り之を証拠と為すことを得
共同被告人若は証人死亡したるとき又は疾病其の他の事由に因り之を召喚し難きとき
被告人又は証人公判外の訊問に対して為したる供述の重要なる部分を公判に於て変更したるとき
被告人又は証人公判廷に於て供述を為ささるとき
第74条
前二条の場合の外裁判外に於て被告人其の他の者の供述を録取したる書類又は裁判外に於て作成したる書類図画は供述者若は作成者死亡したるとき又は疾病其の他の事由に因り召喚し難きときに限り之を証拠と為すことを得
第75条
証拠と為すことに付訴訟関係人の異議なき書類図画は前三条の規定に拘らす之を証拠と為すことを得
第76条
証拠調終りたる後検察官、被告人及弁護人は犯罪の構成要素に関する事実上及法律上の問題のみに付意見を陳述すへし
弁護人数人ある場合に於て被告人の為にする意見の陳述は重複して之を為すことを得す
公判廷に現はれさる証拠は之を援用することを得す
被告人又は弁護人には最終に陳述する機会を与ふへし
参照条文
第77条
前条の弁論終決後裁判長は陪審に対し犯罪の構成に関し法律上の論点及問題と為るへき事実並証拠の要領を説示し犯罪構成事実の有無を問ひ評議の結果を答申すへき旨を命すへし但し証拠の信否及罪責の有無に関し意見を表示することを得す
第78条
裁判長の説示に対しては異議を申立つることを得す
第79条
裁判長の問は主問と補問とに区別し陪審に於て然り又は然らすと答へ得へき文言を以て之を為すへし
主問は公判に付せられたる犯罪構成事実の有無を評議せしむる為之を為すものとす
補問は公判に付せられたるものと異りたる犯罪構成事実の有無を評議せしむる必要ありと認むる場合に於て之を為すものとす
犯罪の成立を阻却する原由と為るへき事実の有無を評議せしむる必要ありと認むるときは其の問は他の問と分別して之を為すへし
第80条
陪審員、検察官、被告人及弁護人は問の変更の申立を為すことを得
前項の申立ありたるときは裁判所は決定を為すへし
第81条
裁判長は問書に署名捺印し之を陪審に交付すへし
陪審員は問書の謄本の交付を請求することを得
第82条
裁判長は評議を為さしむる為陪審員をして評議室に退かしむへし
裁判長は公判廷に於て示したる証拠物及証拠書類を陪審に交付することを得
第83条
陪審員は裁判長の許可を受くるに非されは評議を了る前評議室を出て又は他人と交通することを得す
陪審員に非さる者は裁判長の許可を受くるに非されは評議室に入ることを得す
参照条文
第84条
陪審の答申前陪審員をして裁判所を退出せしむる場合に於ては裁判長は陪審員に対し滞留の場所及他人との交通に関し遵守すへき事項を指示すへし
参照条文
第85条
陪審員第83条第1項の規定に違反したるとき又は前条の規定に依り指示せられたる事項を遵守せさるときは裁判所は其の陪審員に対し職務の執行を禁止することを得
第86条
陪審員は陪審長を互選すへし
陪審長は議事を整理す
第87条
陪審は評議を了る前更に説示を請求することを得此の場合に於ては公判廷に於て其の申立を為すへし
第88条
答申は問に対し然り又は然らすの語を以て之を為すへし但し問に掲くる事実の一部を肯定又は否定するときは之に付然り又は然らすの語を以て答申すへし
第89条
評議は先つ主問に付之を為すへし
主問を否定したる場合に於て補問あるときは之に付評議を為すへし
第90条
陪審員は問に付各其の意見を表示すへし
陪審長は最後に其の意見を表示すへし
第91条
犯罪構成事実を肯定するには陪審員の過半数の意見に依ることを要す
犯罪構成事実を肯定する陪審員の意見其の過半数に達せさるときは之を否定したるものとす
第92条
答申は問書に記載し陪審長署名捺印して之を裁判長に提出すへし
答申に不備又は齟齬あるときは裁判長は問書を返付し更に評議を為し答申を訂正すへき旨を命すへし
第93条
裁判長は公判廷に於て裁判所書記をして問及之に対する陪審の答申を朗読せしむへし
参照条文
第94条
前条の手続終りたるときは裁判長は陪審員を退廷せしむへし
第95条
裁判所陪審の答申を不当と認むるときは訴訟の如何なる程度に在るを問はす決定を以て事件を更に他の陪審の評議に付することを得
参照条文
第96条
陪審犯罪構成事実を肯定するの答申を為したる場合に於て裁判所前条の決定を為ささるときは検察官は適用すへき法令及刑に付意見を陳述すへし
被告人及弁護人は意見を陳述することを得
被告人又は弁護人には最終に陳述する機会を与ふへし
第97条
陪審の答申を採択して判決の言渡を為すには裁判所は陪審の評議に付して事実の判断を為したる旨を示すへし
有罪の言渡を為すには罪と為るへき事実及法令の適用を示すへし刑の加重減免の原由たる事実上の主張ありたるときは之に対する判断を示すへし
無罪の言渡を為すには犯罪構成事実を認めさること又は被告事件罪と為らさることを示すへし
第98条
引続き七日以上開廷せさりし場合に於ては公判手続を更新すへし
陪審を構成すへき陪審員疾病其の他の事由に因り職務を行ふこと能はさる場合に於て補充陪審員なきとき亦前項に同し
前二項の場合に於ては新に陪審構成の手続を為すへし
第99条
裁判所は訴訟の如何なる程度に在るを問はす公訴棄却、管轄違又は免訴の裁判を為すへき原由あることを認めたる場合に於ては陪審の評議に付せすして審判を為すへし
第100条
裁判所書記は陪審員の氏名、陪審の構成其の他陪審に関する訴訟手続及裁判長の説示の要領を公判調書に記載すへし
第3節
上訴
第101条
陪審の答申を採択して事実の判断を為したる事件の判決に対しては控訴を為すことを得す
第102条
陪審の答申を採択して事実の判断を為したる事件の判決に対しては大審院に上告を為すことを得
第103条
上告は刑事訴訟法に於て第二審の判決に対し上告を為すことを得る理由ある場合に於て之を為すことを得但し事実の誤認を理由とする場合は此の限に在らす
第104条
左の場合に於ては常に上告の理由あるものとす
法律に従ひ陪審を構成せさりしとき
第12条第1項第1号又は第13条の規定に依り陪審員たることを得さる者評議に関与したるとき但し評議を了る前訴訟関係人異議を述へさりしときは此の限に在らす
法律に依り職務の執行より除斥せらるへき陪審員評議に関与したるとき但し第62条第3項の申立を為ささりしときは此の限に在らす
忌避せられたる陪審員評議に関与したるとき但し評議を了る前訴訟関係人異議を述へさりしときは此の限に在らす
裁判長の説示法律に違反したるとき
裁判長証拠として説示したるもの法律上証拠と為すことを得さるものなるとき
裁判長法律上の論点に関し不当の説示を為したるとき
第105条
上告裁判所原判決を破毀する場合に於ては事実の審理を為さすして自ら裁判を為す場合を除くの外事件を原裁判所に差戻し又は原裁判所と同等なる他の裁判所に移送すへし
破毀の理由と為りたる事項陪審の評議の結果に影響なきものなるときは陪審の答申は其の効力を有す此の場合に於ては事件の差戻又は移送を受けたる裁判所は答申以後の手続のみを為すへし
第4章
陪審費用
第106条
左に掲くるものを以て陪審費用とし訴訟費用の一部とす
陪審員の呼出に要する費用
陪審員に給与すへき旅費、日当及止宿料
第107条
陪審費用は第3条の場合に於て刑の言渡を為すときは其の全部又は一部を被告人の負担とす
第5章
罰則
第108条
陪審員は左の場合に於ては五百円以下の過料に処す
故なく呼出に応せさるとき
宣誓を拒みたるとき
第83条第1項の規定に違反したるとき
故なく退廷したるとき
第84条の指示に違反したるとき
第109条
陪審員評議の顛末又は各員の意見若は其の多少の数を漏泄したるときは千円以下の罰金に処す
前項の事項を新聞紙其の他の出版物に掲載したるときは新聞紙に在りては編輯人及発行人其の他の出版物に在りては著作者及発行者を二千円以下の罰金に処す
第110条
裁判長の許可を受けすして陪審の評議室に入り又は陪審の評議を了る前裁判所内に於て陪審員と交通したる者は五百円以下の罰金に処す
第111条
陪審の評議に付せられたる事件に付陪審員に対し請託を為し又は評議を了る前私に意見を述へたる者は一年以下の懲役又は二千円以下の罰金に処す
第112条
過料の裁判は陪審員を呼出したる裁判所検察官の意見を聴き決定を以て之を為すへし
前項の決定に対しては抗告を為すことを得此の抗告は執行を停止する効力を有す
過料の裁判の執行に付ては非訟事件手続法第208条の規定を準用す
第6章
補則
第113条
市制第6条の市に於ては本法中市に関する規定は区に、市長に関する規定は区長に之を適用す
町村制を施行せさる地に於ては本法中町村に関する規定は町村に準すへきものに、町村長に関する規定は町村長に準すへき者に之を適用す
第114条
第12条の直接国税の種類は勅令を以て之を定む
附則
本法施行の期日は各条に付勅令を以て之を定む
本法施行前公判期日の定りたる事件に付ては本法を適用せす
附則
昭和4年4月4日
本法は公布の日より之を施行す
附則
昭和16年3月12日
本法施行の期日は勅令を以て之を定む
附則
昭和22年4月16日
第33条
この法律は、日本国憲法施行の日から、これを施行する。

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