ハンセン病問題の解決の促進に関する法律
平成23年5月25日 改正
第1条
【趣旨】
この法律は、国によるハンセン病の患者に対する隔離政策に起因して生じた問題であって、ハンセン病の患者であった者等の福祉の増進、名誉の回復等に関し現在もなお存在するもの(以下「ハンセン病問題」という。)の解決の促進に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、ハンセン病問題の解決の促進に関し必要な事項を定めるものとする。
第2条
【定義】
2
この法律において「国立ハンセン病療養所等」とは、国立ハンセン病療養所及び本邦に設置された厚生労働大臣が定めるハンセン病療養所をいう。
3
この法律において「入所者」とは、らい予防法の廃止に関する法律(以下本則において「廃止法」という。)によりらい予防法(以下「予防法」という。)が廃止されるまでの間に、ハンセン病を発病した後も相当期間日本国内に住所を有していた者であって、現に国立ハンセン病療養所等に入所しているものをいう。
第3条
【基本理念】
1
ハンセン病問題に関する施策は、国によるハンセン病の患者に対する隔離政策によりハンセン病の患者であった者等が受けた身体及び財産に係る被害その他社会生活全般にわたる被害に照らし、その被害を可能な限り回復することを旨として行われなければならない。
2
ハンセン病問題に関する施策を講ずるに当たっては、入所者が、現に居住する国立ハンセン病療養所等において、その生活環境が地域社会から孤立することなく、安心して豊かな生活を営むことができるように配慮されなければならない。
3
何人も、ハンセン病の患者であった者等に対して、ハンセン病の患者であったこと又はハンセン病に罹患していることを理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。
第4条
【国及び地方公共団体の責務】
国は、
前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、ハンセン病の患者であった者等の福祉の増進等を図るための施策を策定し、及び実施する責務を有する。
第5条
地方公共団体は、基本理念にのっとり、国と協力しつつ、その地域の実情を踏まえ、ハンセン病の患者であった者等の福祉の増進等を図るための施策を策定し、及び実施する責務を有する。
第6条
【ハンセン病の患者であった者等その他の関係者の意見の反映のための措置】
国は、ハンセン病問題に関する施策の策定及び実施に当たっては、ハンセン病の患者であった者等その他の関係者との協議の場を設ける等これらの者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。
第2章
国立ハンセン病療養所等における療養及び生活の保障
第7条
【国立ハンセン病療養所における療養】
国は、国立ハンセン病療養所において、入所者(国立ハンセン病療養所に入所している者に限る。
第9条及び
第14条を除き、以下同じ。)に対して、必要な療養を行うものとする。
第8条
【国立ハンセン病療養所への再入所及び新規入所】
1
国立ハンセン病療養所の長は、廃止法により予防法が廃止されるまでの間に、国立ハンセン病療養所等に入所していた者であって、現に国立ハンセン病療養所等を退所しており、かつ、日本国内に住所を有するもの(以下「退所者」という。)又は廃止法により予防法が廃止されるまでの間に、ハンセン病を発病した後も相当期間日本国内に住所を有したことがあり、かつ、国立ハンセン病療養所等に入所したことがない者であって、現に国立ハンセン病療養所等に入所しておらず、かつ、日本国内に住所を有するもののうち、厚生労働大臣が定める者(以下「非入所者」という。)が、必要な療養を受けるために国立ハンセン病療養所への入所を希望したときは、入所させないことについて正当な理由がある場合を除き、国立ハンセン病療養所に入所させるものとする。
2
国は、
前項の規定により国立ハンセン病療養所に入所した者に対して、必要な療養を行うものとする。
第9条
【国立ハンセン病療養所以外のハンセン病療養所における療養に係る措置】
国は、入所者(
第2条第2項の厚生労働大臣が定めるハンセン病療養所に入所している者に限る。)に対する必要な療養が確保されるよう、必要な措置を講ずるものとする。
第10条
【意思に反する退所及び転所の禁止】
国は、入所者の意思に反して、現に入所している国立ハンセン病療養所から当該入所者を退所させ、又は転所させてはならない。
第11条
【国立ハンセン病療養所における医療及び介護に関する体制の整備のための措置】
1
国は、医師、看護師及び介護員の確保等国立ハンセン病療養所における医療及び介護に関する体制の整備のために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
2
地方公共団体は、
前項の国の施策に協力するよう努めるものとする。
第12条
【良好な生活環境の確保のための措置等】
1
国は、入所者の生活環境が地域社会から孤立することのないようにする等入所者の良好な生活環境の確保を図るため、国立ハンセン病療養所の土地、建物、設備等を地方公共団体又は地域住民等の利用に供する等必要な措置を講ずることができる。
2
国は、
前項の措置を講ずるに当たっては、入所者の意見を尊重しなければならない。
第13条
【福利の増進】
国は、入所者の教養を高め、その福利を増進するよう努めるものとする。
第3章
社会復帰の支援並びに日常生活及び社会生活の援助
第14条
【社会復帰の支援のための措置】
国は、国立ハンセン病療養所等からの退所を希望する入所者(廃止法により予防法が廃止されるまでの間に、国立ハンセン病療養所等に入所していた者に限る。)の円滑な社会復帰に資するため、退所の準備に必要な資金の支給等必要な措置を講ずるものとする。
第15条
【ハンセン病療養所退所者給与金及びハンセン病療養所非入所者給与金の支給】
1
国は、退所者に対し、その者の生活の安定等を図るため、ハンセン病療養所退所者給与金を支給するものとする。
2
国は、非入所者に対し、その者の生活の安定等を図るため、ハンセン病療養所非入所者給与金を支給するものとする。
3
前二項に定めるもののほか、
第1項のハンセン病療養所退所者給与金及び
前項のハンセン病療養所非入所者給与金(以下「給与金」という。)の支給に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。
4
租税その他の公課は、給与金を標準として、課することができない。
第16条
【ハンセン病等に係る医療体制の整備】
国及び地方公共団体は、退所者及び非入所者が、国立ハンセン病療養所等及びそれ以外の医療機関において、安心してハンセン病及びその後遺症その他の関連疾患の治療を受けることができるよう、医療体制の整備に努めるものとする。
第17条
【相談及び情報の提供等】
国及び地方公共団体は、退所者及び非入所者が日常生活又は社会生活を円滑に営むことができるようにするため、これらの者からの相談に応じ、必要な情報の提供及び助言を行う等必要な措置を講ずるものとする。
第18条
国は、ハンセン病の患者であった者等の名誉の回復を図るため、国立のハンセン病資料館の設置、歴史的建造物の保存等ハンセン病及びハンセン病対策の歴史に関する正しい知識の普及啓発その他必要な措置を講ずるとともに、死没者に対する追悼の意を表するため、国立ハンセン病療養所等において収蔵している死没者の焼骨に係る改葬費の遺族への支給その他必要な措置を講ずるものとする。
第19条
【親族に対する援護の実施】
1
都道府県知事は、入所者の親族(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)のうち、当該入所者が入所しなかったならば、主としてその者の収入によって生計を維持し、又はその者と生計を共にしていると認められる者で、当該都道府県の区域内に居住地(居住地がないか、又は明らかでないときは、現在地)を有するものが、生計困難のため、援護を要する状態にあると認めるときは、これらの者に対し、この法律の定めるところにより、援護を行うことができる。ただし、これらの者が他の法律(
生活保護法を除く。)に定める扶助を受けることができる場合においては、その受けることができる扶助の限度においては、その法律の定めるところによる。
2
前項の規定による援護(以下「援護」という。)は、金銭を支給することによって行うものとする。ただし、これによることができないとき、これによることが適当でないとき、その他援護の目的を達するために必要があるときは、現物を支給することによって行うことができる。
3
援護のための金品は、援護を受ける者又はその者が属する世帯の世帯主若しくはこれに準ずる者に交付するものとする。
4
援護の種類、範囲、程度その他援護に関し必要な事項は、政令で定める。
第20条
【都道府県の支弁】
都道府県は、援護に要する費用を支弁しなければならない。
第21条
【費用の徴収】
1
都道府県知事は、援護を行った場合において、その援護を受けた者に対して、
民法の規定により扶養の義務を履行しなければならない者(入所者を除く。)があるときは、その義務の範囲内において、その者からその援護の実施に要した費用の全部又は一部を徴収することができる。
第22条
【国庫の負担】
国庫は、政令で定めるところにより、
第20条の規定により都道府県が支弁する費用の全部を負担する。
第23条
【公課及び差押えの禁止】
1
租税その他の公課は、援護として支給される金品を標準として、課することができない。
2
援護として支給される金品は、既に支給を受けたものであるとないとにかかわらず、差し押さえることができない。
附則
第1条
(施行期日)
この法律は、平成二十一年四月一日から施行する。ただし、附則第九条の規定は、この法律の公布の日又は高度専門医療に関する研究等を行う独立行政法人に関する法律の公布の日のいずれか遅い日から施行する。
第3条
(らい予防法の廃止に関する法律の廃止に伴う経過措置)
この法律の施行の日前に行われ、又は行われるべきであった前条の規定による廃止前のらい予防法の廃止に関する法律(以下「旧廃止法」という。)第六条の規定による援護については、なお従前の例による。
第4条
この法律の施行の日前に行われ、又は行われるべきであった旧廃止法第七条に規定する費用についての都道府県の支弁及び国庫の負担については、なお従前の例による。
第5条
旧廃止法の施行前にした行為に対する罰則の適用については、旧廃止法附則第四条の規定によりなお効力を有することとされる予防法第二十六条の規定は、なおその効力を有する。
附則
平成23年5月25日
この法律は、新非訟事件手続法の施行の日から施行する。