武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律
平成22年4月27日 改正
第1条
【目的】
この法律は、武力攻撃事態における捕虜等の拘束、抑留その他の取扱いに関し必要な事項を定めることにより、武力攻撃を排除するために必要な自衛隊の行動が円滑かつ効果的に実施されるようにするとともに、武力攻撃事態において捕虜の待遇に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約(以下「第3条約」という。)その他の捕虜等の取扱いに係る国際人道法の的確な実施を確保することを目的とする。
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参照条文
第2条
【基本原則】
1
国は、武力攻撃事態においてこの法律の規定により拘束され又は抑留された者(以下この条において「捕虜等」という。)の取扱いに当たっては、第3条約その他の国際的な武力紛争において適用される国際人道法に基づき、常に人道的な待遇を確保するとともに、捕虜等の生命、身体、健康及び名誉を尊重し、これらに対する侵害又は危難から常に保護しなければならない。
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参照条文
第3条
【定義】
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
④
抑留対象者 次のイからルまでのいずれかに該当する外国人をいう。
ハ
船舶(軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶であって非商業的目的のみに使用されるもの(以下「軍艦等」という。)を除く。)であって敵国軍隊等の軍艦等に警護されるもの又は武力攻撃事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律第2条第3号に規定する外国軍用品等(ニにおいて「外国軍用品等」という。)を輸送しているものの乗組員(武力攻撃を行っている外国の国籍を有する者に限る。)
リ
敵国軍隊等の構成員であって、千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書I)(以下「第一追加議定書」という。)第44条3に規定する義務に違反し、捕虜として取り扱われる権利を失うこととなるもの
第4条
【拘束措置】
自衛隊法第76条第1項の規定により出動を命ぜられた自衛隊の自衛官(以下「出動自衛官」という。)は、武力攻撃が発生した事態において、服装、所持品の形状、周囲の状況その他の事情に照らし、抑留対象者に該当すると疑うに足りる相当の理由がある者があるときは、これを拘束することができる。
第6条
【被拘束者の引渡し等】
2
出動自衛官は、前項の規定にかかわらず、指定部隊長よりも近傍に抑留資格認定官(方面総監、地方総監又は航空方面隊司令官若しくは航空混成団司令その他政令で定める部隊等の長をいう。以下同じ。)が所在するときは、防衛大臣の定めるところにより、被拘束者を当該抑留資格認定官に引き渡すことができる。
第8条
【指定部隊長による確認】
1
指定部隊長は、第6条第1項の規定により被拘束者の引渡しを受けたときは、速やかに、当該被拘束者について、その氏名、階級又は地位(以下「階級等」という。)、生年月日及び身分証明書番号等(身分証明書番号、個人番号その他これに類する個人を識別するために付された数字、記号又は符号をいう。以下同じ。)を確認しなければならない。
第11条
【抑留資格認定のための調査】
2
抑留資格認定官は、抑留資格認定のため必要があるときは、参考人の出頭を求め、当該参考人を取り調べることができる。この場合において、当該参考人が他の抑留資格認定官の管理する収容区画等(第172条第1項に規定する区画又は施設をいう。)に留め置かれ、又は捕虜収容所に収容されている者であるときは、抑留資格認定官は、当該他の抑留資格認定官又は捕虜収容所長に対し、当該参考人の取調べを依頼することができる。
3
抑留資格認定官は、抑留資格認定のため必要があるときは、被拘束者の所持品又は身体の検査をすることができる。ただし、女性の被拘束者の身体を検査する場合には、緊急を要するときを除き、女性の自衛隊員(自衛隊法第2条第5項に規定する隊員をいう。第168条第1項において同じ。)にこれを行わせなければならない。
第16条
【抑留資格認定に係る処分】
2
抑留資格認定官は、被拘束者が抑留対象者(軍隊等非構成員捕虜に限る。)に該当する旨の抑留資格認定をする場合においては、併せて、当該被拘束者を抑留する必要性についての判定をしなければならない。この場合において、当該被拘束者の抑留は、武力攻撃を排除するために必要な自衛隊の行動を円滑かつ効果的に実施するため特に必要と認めるときに限るものとし、抑留資格認定官は、あらかじめ、その判定について、防衛大臣の承認を得なければならない。
3
抑留資格認定官は、被拘束者が抑留対象者(軍隊等非構成員捕虜に限る。)に該当する旨の抑留資格認定をしたときは、防衛省令で定めるところにより、直ちに、当該被拘束者にその旨及び前項の判定の結果を通知しなければならない。
第22条
【他の法令による身体拘束手続との関係】
2
抑留資格認定官は、前項の規定による調査の結果、同項第2号に掲げる者が抑留対象者に該当すると認めるときは、その者について、第16条の規定の例により、抑留令書を発付した上、入国警備官(入管法第2条第13号に規定する入国警備官をいう。)からその者の引渡しを受け、これを抑留することができる。
第24条
【基本原則】
第25条
【利益保護国等への配慮】
捕虜収容所長は、利益保護国代表並びに指定赤十字国際機関(赤十字国際機関であって政令で定めるものをいう。以下同じ。)及び指定援助団体(防衛大臣が指定する被収容者への援助を目的とする団体をいう。以下同じ。)の代表が第3条約及び第一追加議定書の規定により遂行するそれらの任務を尊重し、その遂行に支障が生じないよう特に配慮しなければならない。
第30条
【被収容者の清潔義務】
被収容者は、身体、着衣及び所持品並びに居住区画(被収容者が主として休息及び就寝のために使用する場所として捕虜収容所長が指定した区画をいう。第45条において同じ。)その他日常使用する場所を清潔にしなければならない。
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参照条文
第32条
【医療】
2
捕虜収容所長は、前項に規定する措置を講ずるに当たっては、その措置を受ける被収容者の意思を十分に尊重するとともに、被収容者がその属する国の衛生要員による診療を受けることができるよう配慮しなければならない。
3
捕虜収容所長は、被収容者が感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12条第1項各号に掲げる者に該当すると認めるときは、防衛大臣の定めるところにより、当該被収容者の隔離、入院その他の必要な措置を講ずるものとする。
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参照条文
第33条
【医師相当衛生要員等】
3
第1項の規定により医業をする場合における医師相当衛生要員等は、医師とみなして、保健師助産師看護師法第6条及び第37条、歯科衛生士法第13条の3、診療放射線技師法第2条第2項、第24条の2、第26条及び第28条第1項、臨床検査技師等に関する法律第2条及び第20条の2、薬剤師法第19条及び第22条から第24条まで並びに臨床工学技士法第2条第2項及び第38条の規定を適用する。
第34条
【歯科医師相当衛生要員等】
1
捕虜及び衛生要員のうち、捕虜収容所長が外国において歯科医師に相当する資格を有する者と認めたもの(以下「歯科医師相当衛生要員等」という。)は、歯科医師法第17条の規定にかかわらず、自衛隊病院等において、被収容者に対し、歯科医業をすることができる。
3
第1項の規定により歯科医業をする場合における歯科医師相当衛生要員等は、歯科医師とみなして、保健師助産師看護師法第6条及び第37条、歯科衛生士法第2条第1項、第13条の2及び第13条の3、診療放射線技師法第2条第2項、第24条の2、第26条及び第28条第1項、歯科技工士法第2条第1項ただし書及び第18条ただし書、臨床検査技師等に関する法律第2条及び第20条の2並びに薬剤師法第19条及び第22条から第24条までの規定を適用する。
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参照条文
第35条
【薬剤師相当衛生要員等】
1
捕虜及び衛生要員のうち、捕虜収容所長が外国において薬剤師に相当する資格を有する者と認めたもの(以下「薬剤師相当衛生要員等」という。)は、薬剤師法第19条の規定にかかわらず、自衛隊病院等において、被収容者に対し、授与の目的で調剤することができる。
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参照条文
第36条
【看護師相当衛生要員等】
1
捕虜及び衛生要員のうち、捕虜収容所長が外国において看護師に相当する資格を有する者と認めたもの(以下「看護師相当衛生要員等」という。)は、保健師助産師看護師法第31条第1項の規定にかかわらず、自衛隊病院等において、被収容者に対し、同法第5条に規定する業をすることができる。
2
保健師助産師看護師法第37条の規定は、看護師相当衛生要員等について準用する。この場合において、同条中「主治の医師又は歯科医師」とあるのは、「主治の医師、歯科医師、医師相当衛生要員等又は歯科医師相当衛生要員等」と読み替えるものとする。
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参照条文
第37条
【准看護師相当衛生要員等】
1
捕虜及び衛生要員のうち、捕虜収容所長が外国において准看護師に相当する資格を有する者と認めたもの(以下「准看護師相当衛生要員等」という。)は、保健師助産師看護師法第32条の規定にかかわらず、自衛隊病院等において、被収容者に対し、医師、歯科医師、看護師、医師相当衛生要員等、歯科医師相当衛生要員等又は看護師相当衛生要員等の指示を受けて、同法第6条に規定する業をすることができる。
2
保健師助産師看護師法第37条の規定は、准看護師相当衛生要員等について準用する。この場合において、同条中「主治の医師又は歯科医師」とあるのは、「主治の医師、歯科医師、医師相当衛生要員等又は歯科医師相当衛生要員等」と読み替えるものとする。
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参照条文
第38条
【秘密を守る義務】
医師相当衛生要員等、歯科医師相当衛生要員等、薬剤師相当衛生要員等、看護師相当衛生要員等又は准看護師相当衛生要員等は、正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。医師相当衛生要員等、歯科医師相当衛生要員等、薬剤師相当衛生要員等、看護師相当衛生要員等又は准看護師相当衛生要員等でなくなった後においても、同様とする。
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参照条文
第40条
【自ら行う宗教上の行為】
捕虜収容所内において被収容者が自ら個別に行う礼拝その他の宗教上の行為は、これを禁止し、又は制限してはならない。ただし、捕虜収容所の規律及び秩序の維持その他管理運営上支障を生ずるおそれがある場合は、この限りでない。
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参照条文
第45条
【身体の検査等】
捕虜収容所長の指定する自衛官は、捕虜収容所の規律及び秩序を維持するため必要があるときは、被収容者の身体、着衣、所持品及び居住区画を検査し、並びに被収容者の所持品を取り上げて一時保管することができる。ただし、女性の被収容者の身体及び着衣を検査する場合には、捕虜収容所長の指定する女性の自衛官が行わなければならない。
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参照条文
第46条
【制止等の措置】
第47条
【用具の使用】
捕虜収容所に勤務する自衛官は、前条の規定による措置をとる場合又は被収容者を護送する場合には、防衛大臣の定めるところにより、手錠その他の防衛省令で定める用具を使用することができる。
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第48条
【懲戒処分】
懲戒権者(捕虜収容所長又は捕虜収容所に勤務する幹部自衛官(防衛省設置法第15条第1項に規定する幹部自衛官をいう。)であって政令で定める者をいう。以下同じ。)は、被収容者が次の各号のいずれかの行為をしたときは、当該被収容者に対し、懲戒処分を行うことができる。
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参照条文
第50条
【懲戒処分の基準】
懲戒処分を行うに当たっては、反則行為をした被収容者の年齢、心身の状態及び行状、反則行為の性質、軽重、動機及び捕虜収容所の運営に及ぼした影響、反則行為後における当該被収容者の態度その他の事情を考慮しなければならない。
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参照条文
第51条
【懲戒処分を行う手続等】
2
前項の調査のため必要があるときは、防衛省令で定めるところにより、反則行為をした疑いのある被収容者を他の被収容者から隔離することができる。この場合において、当該被収容者を隔離する期間は、十四日を超えてはならない。
第54条
【懲戒処分執行後の監視】
捕虜収容所長は、第48条第1号に掲げる行為をしたことを理由に懲戒処分を受けた被収容者については、当該懲戒処分の執行が終了した後、これを防衛省令で定める監視の下に置くことができる。
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参照条文
第62条
【活動等への援助】
2
捕虜収容所長は、防衛省令で定めるところにより、被収容者のうち、将校、准士官又は下士官として指定された者に対し、自己契約作業(これらの者が捕虜収容所の外部の者との請負契約により行う物品の製作その他の作業をいう。)について、援助を与えるものとする。
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参照条文
第69条
【宗教上の行為の補助等に関する業務】
捕虜収容所長は、捕虜のうち、宗教、祈とう又は祭祀の職にあった者に、その希望により、第64条第4号に掲げる業務に従事することを許すことができる。
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参照条文
第73条
【捕虜等抑留給付金】
2
捕虜収容所長は、防衛省令で定めるところにより、給付金台帳を作成し、給付対象捕虜等ごとに捕虜等抑留給付金の計算高(以下この節において「給付金計算高」という。)を記録して、これを管理しなければならない。
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参照条文
第75条
【捕虜等抑留給付金の支給等】
2
捕虜収容所長は、給付対象捕虜等から、自弁物品の購入以外の目的で、又は前項に規定する合計額を超えて捕虜等抑留給付金の支給を受けることを希望する旨の申出があった場合において、その支給が抑留業務の効率的かつ円滑な運営に支障がないと認めるときは、当該給付対象捕虜等に係る給付金計算高の範囲内で、当該申出の額の全部又は一部を支給することができる。
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参照条文
第76条
【捕虜等抑留給付金の加算の制限】
第58条第2項の規定により給付対象捕虜等に物品が貸与され、又は支給された場合には、その貸与又は支給の日の属する月の基礎的給付金の全部又は一部を給付金計算高に加算しないことができる。